令和6年3月4日に選考委員会を開催し「第57回やってみなはれ佐治敬三賞」を選出いたしました。 今年もたくさんのチャレンジ精神あふれる「やってみなはれ」な作品の応募がありました。 個性あふれるチャレンジ、しっかりと成果を残した作品、安定感のある王道のCM。様々なジャンルからの応募があり、選考委員の皆さんの熱い議論もありましたが、最後は満場一致で選出となりました。
第57回やってみなはれ佐治敬三賞 受賞者
茗荷 恭平 氏 (みょうが きょうへい)氏
株式会社電通
アートディレクター / CMプランナー
- プロフィール
- 1987年神戸市生まれ 京都市立芸大卒
名刺にはアートディレクター/CMプランナーと書いてありますが、正直なところ自分でもよくわかりません。
最近はCG作業をしていると心が落ち着きます。
受賞対象作品
- 大日本除虫菊「キンチョール ヤング向け映像」 (テレビCM)
- ロート製薬 「目の愛護ショー」 (WEBムービー)
- 赤城乳業 「ガリガリ君 当たりつき やめるのを やめました」 (新聞30段/テレビCM/OOH)
- 赤城乳業 「知ってる知っていない篇 地名篇 うまかった篇」 (テレビCM/ WEBムービー)
- 大日本除虫菊「ダニがいなくなるシート 置いてください劇場」 (WEBムービー)
- 赤城乳業 「歩くソフトクリーム篇/思いはおなじ篇」 (テレビCM/ WEBムービー)
ロート製薬 「目の愛護ショー」 (WEBムービー)
赤城乳業 「ガリガリ君 当たりつき やめるのを やめました」 (新聞30段/テレビCM/OOH)
受賞対象作品 大日本除虫菊「キンチョール ヤング向け映像」 (テレビCM)
受賞理由
生み出される作品はどれも面白さを追求していた。
AIを活用した大日本除虫菊キンチョールのCMでは制作した生成画像は5000枚を超え、やり切った感があふれていました。大きな決断だった赤城乳業のガリガリ君の企業メッセージはその切り口と遊び心、そして真摯な表現は消費者にしっかりと伝わっていました。そしてドローンを活用したロート製薬の目の愛護啓蒙キャンペーンでは、大阪の夜空をメディアにする発想はインパクトがあり、クオリティの高さが際立ちました。広告主と協力したこのイベントは、自らロケハンを行い、検証、演出、音楽選定、話題化醸成までアートディレクターの枠を超えて、プランニングからコピーライトまで手掛け熱量を大いに感じました。またその姿勢は若手クリエイターに勇気をも与えました。世の中を幸せにする想いと多くのチャレンジは「やってみなはれ」の精神を体現しており、この度の受賞となりました。
主な受賞歴
TCC新人賞、ACC賞 、OCC賞 、グッドデザイン賞 、文化庁メディア芸術祭 審査員推薦作品
第57回やってみなはれ佐治敬三賞 ファイナリスト
- 佐藤 朝子と福居 亜耶(電通)
- 廣瀬 泰三(電通)
- 濱田 龍慈(電通)
第57回やってみなはれ佐治敬三賞 審査講評
- 選考委員長
世耕 石弘(学校法人 近畿大学 経営戦略本部 本部長) - 重責の選考委員長を務めるのも今回で4回目である。ただし、過去2回はコロナ禍によるオンライン選考であり、対面での選考はこれが2回目である。前回はスムーズな進行を最優先に考えていたが、それをよしとしない個性豊かな選考委員の皆さんとの前回のやり取りがトラウマとなっており、今回はそれまでにない緊張を感じて会場に向かった。和気あいあいとした雰囲気で選考は始まったが、事前の投票結果を基に迅速に結論を出そうとする私に対して、選考委員の皆さんからは冷ややかな視線を感じた。広告に人生を賭け、広告にロマンを追求する彼らにとって、事前の選考結果は単なる数字にしか過ぎなかった。副委員長の児島令子先生を含む9名の選考委員の皆さんは、自らの推す作品について熱く語り出し、全員が意見を述べ終えたところで、速やかに再投票へと移った。私はこれで決着がつけば、早々に選考会を終えて美味しい酒を楽しめると期待していたが、その後も議論は終わることなく続き、そしてとうとう三度目の投票へ。結果は出たので、「どうかこれで決めてください」と心の底から願っていたが、なんともスッキリしない空気が漂う。最後は事務局の介入もあり、何とか選考の結論はまとめることが出来た。
このスッキリしない感じこそ、応募作品のどれもが大賞にふさわしい高いレベルであったことを示していたと言えるだろう。そうした作品に数時間かけて徹底的に議論を続けた選考委員の姿は、クリエーターに対する愛と尊敬の気持ちに満ち溢れていた。冷や汗ものの進行ではあったが私自身、立場は違えど広告に携わる者として、広告の奥深さを再認識することができた選考会であった。
- 副委員長
児島 令子(コピーライター) - いつものように、まずWEBで一次審査です。
昨年惜しくも受賞を逃した茗荷さん、今年も応募リストに登場。
お、昨年以上の充実したラインナップじゃないですか。
これは今年リベンジできるんじゃないかと思ったら……
ファイナリスト常連の廣瀬さんがググッと仕上げてきた~。
企画力、コピー力、おもしろ力が揃った作品群。過去いちの布陣かも。
男2人の熱い戦いになるのかと思いきや……
佐藤&福居コンビが、颯爽とランドセルをひっさげて参戦。
よくある家族っていいね系の長尺ドキュメントムービーかと思ったら全然違う。
子どもが親の顔色を見て生きているという真実を提示する秀作。
優しい映像の中に、私は親子関係における子どもの危うさを考える。
この幸せな世界が一歩間違うと不幸な虐待問題にもつながるという
隠れメッセージがあるのかないのかと妄想したりして……
するとそこに濱田さんという新参現る。
船場センタービルの魅力を再認識させるための施策。
今年の審査でいちばん惹かれたのはこの漫画でした。
翌日用事でビルの近所に行ったので思わず足を踏み入れてしまいました。
静かに心の中に届く「やってみなはれ」だったのです。
そしてリアルに集まって本審査へ。
一次審査では茗荷さんが一歩抜けてたものの、
そうすんなり決まらない、決めないのがこの賞です。
各応募者への応援演説、何をどこを評価すべきかの議論、
はたまたこの人どんな人?という素朴な興味からの談議など、
たっぷりと時間を使って審査は進行し、ご覧の結果になりました。
茗荷さん、さまざまな好敵手のいる中での受賞、さすがです。
これからの仕事、ずっと見てますからね。
そしてこんなに議論ができる審査会にしてくれた応募者のみなさん、
ありがとうございます。来年も期待しています!
- 田中 幹
(株式会社博報堂 マーケットデザインビジネス推進局 統合プランニング部 クリエイティブディレクター) - 茗荷恭平さん。チームに茗荷さんがいると心強いのが伝わります。CD・企画・コピーの3つ全部やったくらいの自分率の高いものだけで勝負出来ると思いますし、勝負していってほしいと思いました。
佐藤朝子さんと福居亜耶さん。個人的には昨年受賞「関西人になった男」に匹敵する今年1番のコンテンツはこの「ランドセルの色」でした。2人チーム応募で、規程上ここは当然OK、でも一作品の、この切れ味ゆえ、企みと実行のキーマンは(苦しいけど、、)絞れたかもしれないと思いました。
廣瀬泰三さん。セオリーに忠実で面白いです。(味覚糖のええ声等)。ほぼアウトみたいな魔球も見たいです。
濱田龍慈さん。「忘れたフリ」「ダンロップ」他のやってみなはれと空気感のちがうひんやりした感じが新しかったです。
- 岡 ゆかり(株式会社サン・アド クリエイティブ本部 クリエイティブディレクター)
- 今年の審査会も無事大阪でリアル開催することができた。
あっという間の一年で、昨年の白熱した議論を思い出しながら審査会に臨んだ。
事前審査の結果がスクリーンに映し出されたが、想像通り今年も接戦が予想された。
毎年惜しいところで受賞を逃してきた、実力ある常連の方々が上位を占めた。
佐藤朝子さんと福居亜耶さん、廣瀬泰三さん、茗荷恭平さん。そしてニューフェイスの濱田龍慈さん。
昨年惜しくも細田さんとの一騎打ちで敗れた茗荷さんが優位と見られたが、今年も懇親会までたっぷり時間はある。
各審査員の講評および応援演説が繰り広げられ、書面だけではわからない制作裏話なども伺い、審査が深まっていった。
作品としては、ロート製薬「目の愛護ショー」「ロート×ローキ」セイバン「ランドセル選びドキュメンタリー」
船場センタービル「50周年忘れたフリをして」が高く評価されていった。
今年議論のポイントにもなったが、広告は個人で作れるものはなく、チームで作るもの。しかしこの賞は個人を評価するもの。
この広告は、誰の企画アイデアから始まったものなのか、が一番重視されるべきではないか。
そのような議論もあり、茗荷さんが今年の「やってみなはれ佐治敬三賞」に輝いた。
とうとうやりましたね!茗荷さん!
毎年新しい「やってみなはれ」を見せてくださり有難うございます。
「目の愛護ショー」は私もイチオシで、スケールの大きさを支える緻密な計算と粘り強さに感服です。
朝子さんと亜耶さん。セイバンさんの子供の健全な育成を願う想いがしっかり伝わってくる素敵な動画でした。来年も待っています。
廣瀬さん。廣瀬さんのベタな(失礼!)作風に私はやられてしまいました。
大阪もちまろ果、絶対買います!パチンコ川柳カレンダーもその執念やアイデアはお見事です。
そして、今回一番強烈な印象を植え付けられたのは濱田さんの、船場センタービル「忘れたフリをして」だった。
町田氏、という一人の人物を通して語られる船場センタービルが、リアリティを持って、ユニークさ、唯一無二感を感じさせる。
この仕上がりを想定してアサインしたのか。。。ある不気味さを漂わせながら人のココロに深く入り込んでくる。
不思議なヴェールに包まれた天才の誕生なのか。来年の佐治敬三賞が楽しみでならない。
- 喜多 真二(株式会社大広WEDO 大阪クリエイティブ力Division CD)
- 毎回「やってみなはれ佐治敬三賞」の審査は、楽しくもあり、苦しくもあり。
すでに一筋縄ではいかなくなった広告コミュニケーションを、
自分なりの工夫で、えいやっと磨き上げた仕事は、多種多様で、
もはや異種格闘技と言っても過言ではなく、審査は本当に難しい。
本年も、審査委員がそれぞれの基準でもって評価をもちより、侃々諤々の議論の末、
常連の茗荷さんが、栄冠に輝きました。茗荷さん!おめでとうございます。
様々なコミュニケーション手法で、これでもか!と熱のこもった仕事の数々に
圧倒されました。特にロート製薬の目の愛護ショーは、狙いを定め、その実現のための
熱量は凄い。想いのこもった良い仕事だと感心いたしました。素晴らしいです。
惜しくもファイナリストとなった方々のお仕事、
佐藤さんと福居さんのセイバンのランドセルドキュメンタリーは、
何回みても心にグッとくる動画。ストーリー構成がとても良いです。
廣瀬さんのロート✕ローキキャンペーンは、シンプルだけど、
思い切ったアイデアで切れ味が凄かった。
濱田さんの船場センタービル、忘れたフリをしては、長時間のムービーにもかかわらず、
思わず見入ってしまう力があり、こんなコミュニケーションのやり方もありなのか、と
勉強になりました。
応募していただいた、みなさまそれぞれに、課題を解決するための
いろんな「やってみなはれ!」が潜んでいました。審査を通して、
広告コミュニケーションが難しくなっていると言われる現在でも、
まだまだ、広告でやれることは沢山ある。ということを思い知らされました。
来年も、またこの審査会で新しい挑戦に出逢えることを楽しみにしています。
- 菅野 薫((つづく) クリエーティブ・ディレクター)
- 審査に参加させていただいて2年目になりました。
僕は近畿圏在住や勤務ではないので、応募者で面識ある方も少なく、
初参加だった昨年は新鮮に全員の作品を丁寧に観て、考えて、
シンプルに議論に参加しました。
今年は審査の中で、継続して応募し挑戦しつづける方々、
これまでにない立ち位置や方法論で成果を出して全く新しい文脈を持ち込む方、
2回目になってみて初めてみえてきた文脈がありました。
そういった、時間を経て成長しつづける個人の表現技術、
時代によって変化するクリエイターに求められるアイディア、
をリアルに感じ取ることが出来るのも、
賞が毎年続くことの意義の一つだと考えさせられました。
今年のグランプリの茗荷恭平さんは昨年もグランプリを争う上位者でした。
今年は昨年までの代表作に加え、安定したクオリティの新作も加え応募されていて、
審査員誰も文句なしの受賞だったように思います。
ファイナリストに入った皆様どなたも内容的に素晴らしく、
タイミングと組み合わせによってはグランプリになっていておかしくないレベルで、
その差も僅差だったと思います。
(誰とどのタイミングで競うことになるかで受賞が決まるのは、
どうしても運の要素が入ってきてしまいますね。。)
諦めずに来年以降も素晴らしい仕事を実現して挑戦して欲しいと願っています。
それくらい惜しかったと思っています。
一方で、真逆なことを言ってしまいますが、
毎年グランプリの上位者が固定してしまうことは少し心配です。
広告賞は、広告の未来の可能性を指し示し、受賞者の未来のキャリアの後押しをするもの。
参加者が限られていて勝者が順番に抜けていくゲームみたいになってしまうようであれば、
広告業界の未来がちょっと、いや、かなり心配です。。
来年以降、既に高い技術を持って活躍している方々の再挑戦はもちろん、
これまでにない方法論とアプローチで広告のこれからの可能性を感じさせてくれる
候補者が更に増えていくことを祈っています。
- 中島 信也(株式会社東北新社 顧問 エグゼクティブクリエイティブディレクター)
- やってみなはれ佐治敬三賞が普通のクリエイターの賞と違うポイントが2つあると思ってます。ひとつは、
①作品単品の良し悪しを問うのではなく、その人がどんな取り組みをしたのか?が問われる
という点。もちろん作品単品があかんかったらあかんのですけど。もうひとつは、
②大阪ならではの『どや』があると強い
これは僕個人の思いやと思いますがエントリーの裏に「やってみなはれ言うからやってみたで。どや!」という気合いが込められてて、この気合いが受賞にかなり影響してるんとちゃうか、という点です。
近頃の広告はお利口なものが多くて「インサイトを鋭く突いた共感性の高いもの」はたくさんあるし、とても良くできてはいるんやけどなんかちょっと物足りない。特に「すましてカッコつけてる」ことを良しとしない大阪という文化圏。「どうせやったらなんかやってくれや」という目に見えない圧力のもとで生活しているせいか、否応なく表現の押し出しが強くなる。強すぎて敬遠されることもしばしば。でも佐治敬三賞はこの「どや」という「押し出し」を評価してると思います。
全国区の賞もええけど、お国柄が滲み出てるクリエイターの賞があってもええと思う。「あほや」という言葉はここでは最高の賛辞。茗荷さん!最高のあほですね笑 ほんまにおめでとうございます!
- 古川 雅之(電通Creative KANSAI / クリエーティブディレクター)
- ここ数年、常に最終決戦を争っていたのではないか。いつも審査会を盛り上げてくれていた茗荷氏が、ついに佐治敬三賞を射止めた。ロート、金鳥、赤城。「クライアントと制作チームに恵まれているのでは?」という逆風も少しはあったが、制作担当分野(自身の発案かどうか・どこを・何をしたか)も細かく明記してあり(これ結構大事です)、文句のつけどころはなかった。昨年から引き続き応募の『キンチョウ/ダニがいなくなるシート』のお店頭様。ADとコピーの二刀流で挑んだ『赤城乳業/フロリダサンデー』。そしてとくに、今年新たにラインナップに加えてきた『ロート製薬/目の愛護ショー』が絶賛された。企画から実施まで—-自転車でのリアルロケハンから3Dデータを活用したバーチャルなアングル検証、自らドローンの演出コンテを書き、現場の音楽演出、話題化フローの構築、そして全体的なアートディレクションまで。情熱なしにはなし得ない八面六臂の活躍は、まさに「やってみなはった!」と言えるだろう。茗荷さん、おめでとうございます。
と、精選したラインナップで挑んだ茗荷氏を、最後まで追い詰めたファイナリストの面々。まず「佐藤朝子と福居亜耶」チーム。セイバンの『ランドセル選びドキュメンタリー』は気づきと感動、そうトシちゃんも驚く「ハッとして! Good」なクオリティ。その視点と作りの巧みさ(サプライズ)に関しては、ほかの審査員の方がとても腑に落ちる解説をしてくれると思います。こういうのがあと1、2本あれば・・と、欲どしい審査員であった。つぎに廣瀬氏。ロート製薬の『ロート×ローキ(佐々木朗希)キャンペーン』が人気を集めた。単なる名前ダジャレと言ってしまえばそれまでだけど、野球大好きエナジーでこれを実現し(思いついてもできないことが多いから)、話題化するところまで緻密に組み立てたクリエーティブには、確かなやってみなはれ精神を感じた。こういうのがあと2、3本あれば・・とどこまでも欲深い審査員であった。濱田氏の『船場センタービル/忘れたふりをして』は、どう発想し、どう作ったのか、広告クリエーターの思考ではたどり着けないと感じた。圧倒的に強い個性で審査員の心を掴んだ。
佐治敬三賞はおもしろい賞だ。「人」を評価するため、応募作品は1年単位に限っていない。「やってみなはれ精神」という大テーマのもと、審査の基準は審査員それぞれだが、応募者自身が何を担当したか(自身の作品と言えるか)にはとくにシビア。また応募ラインナップの来歴(あれを残してこれを入れてきた!)や作品の並び(応募の仕方)にまで人柄と未来を見ようとするのは、この賞ならではのものだと思う。パッと獲る人も入れば、ずっと諦めないで獲る人もいる。
- 村山 貴浩(株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ EXデザイン本部 第4EXクリエイティブ局 エリアクリエイティブG グループ長 クリエイティブ・ディレクター)
- やってみなはれ!を決めるのはいつも難しい。それは、作品ではなく「人」を選ぶからだ。
そのアイデアは誰のものなのか。どこからどこまでがその人なのか。クリエイティブの向きあう領域や手法が広がる今、1人より多様な知恵を集結したほうが、高いアウトプットを生む。そんな時代になおさら直面する難しさなのかもしれない。
今回の審査では、このあたりがひとつの争点だったと思います。
茗荷さんの仕事は、どこにでも茗荷さんがしっかり存在していました。
目の愛護ショーでは、空という途方もないキャンバスをいろんなアングルから検証。空をメディアとして捉えて、ビルの間から見る人を計算し尽くすなど、その胆力と情熱にはもう脱帽です。結果、ドローン表現に新たなやってみなはれ!を魅せてくれたと思います。キンチョールの仕事も、生成AIをあえて使いまくる気が遠くなるようなチャレンジから、独特の世界感を構築しきってしまう。どういう頭をしているのでしょう。お店頭さまもソフもフロリダサンデーもこれだけの幅の作品ですべてレベル高く、領域にとらわれず、どこにでも茗荷さんの色がはみ出ていて、やりきっている。もう多才としか言いようがないです。
ファイナリストの佐藤さんと福居さんは、なんといってもランドセル。本質をしっかりみつめて、1mmも嘘がない、本音の中からハッと驚く発見がある。そこへたどり着くために1枚1枚はがしながら妥協しない魂を感じました。だからこそ他に似ない。心が動く。本質を突き詰めつづけると、新しいものができあがっていくその構築力に感動しました。
廣瀬さんは、ロート×ローキの使い倒しが抜け抜けとしてスカッと面白かったです。どの作品も、狙いを定めながらしっかりズラしていく技術が、毎度ながらほんとに天才的だと感心しました。
濱田さんは、衝撃の船場センタービル。どのアングルからみたら町田洋さんにたどり着いたのか、その脳の中がまず凄い。商業施設からは想像できないはじまりなのに、静かな読後感がどこまでも心に残る。まんまと計算どおりにハマりました笑。他の人と全く似ていない、よもやすると荒っぽい、いやそうではなくきっと全く新しいのだろう。今までとは違う、やってみはれ!の気配がプンプンと漂う方でした。
個人的には、堀さんも他のクリエーターと違う気配を感じた一人でした。
OOH・SNSのクリエイティブがPRでどう話題化していくか、語りたくなるツボを計算し尽くしている。それを俯瞰で手に取って見ているような個性に、ただのスマートさだけではない企てモノの気配が漂い、興味を魅かれました。
今回の審査は、ひとりひとりの作品が濃く、ジャンルや表現の広がりもあり、やってみなはれ!のチャレンジにふさわしい見ごたえのある作品がいくつもありました。
受賞された茗荷さん、ファイナリストのみなさま、おめでとうございました!
- 山崎 隆明(株式会社ワトソン・クリック クリエイティブディレクター)
- グランプリの茗荷さんは、
文句なしで獲るべくして獲ったな、という印象です。
すべての出品作に制作者の熱量と企みを感じました。
茗荷さんのポテンシャルは相当高いと思うので、
これからも自分にしか作れない個性が炸裂する広告を作り続けてほしいです。
あとファイナリストの常連でもある廣瀬さん。
ロートとローキ(佐々木朗希)は関西特有のベタな発想をキャストとサウンドロゴで
うまくメジャーな表現に昇華できているのがいいなと思いました。
関西発でメジャーな広告って意外にないので。
(茗荷さんも出品していた)ロートの花火も川柳も安定していました。
シャープの荒木さんの作品は、
メーカーに所属しながら生活に根づいた新しい商品の見せ方を模索していて、
派手さはないですがすごくやってみなはれ精神を感じました。
それにしてもいい広告の定義が曖昧な時代、
広告を審査するという行為は年々難しくなっていますね。
広告の審査は制作者の視点で行いますが、
今の時代を生きる視聴者である自分との乖離に悩む瞬間があります。
特にスマホでの動画視聴が長い私にとって、ながら視聴で観るテレビモニター以上に
広告は苦痛だし、広告に中途半端な表現を求めていない視聴者の自分がいたりします。
そんななか今年の佐治敬三賞の出品作で、
制作者としてとても気になった広告がひとつだけありました。
それは濵田さんが出品していた船場センタービルの長尺ムービー。
その動画は関西の制作者にありがちな面白いもの見せたるぞオーラは皆無。
最初の鬱の話や広告依頼を断ろうとするくだりはじゅうぶんキャッチーですが、
基本的には淡々と船場センタービルのリアルな日常を漫画家視点で語っているだけ。
その1人称で語られるさびれた船場センタービルがとても素敵な場所に見えたんですよね。
広告と反りが合わなさそうな漫画家の方のフィルターワークが良かったのと、
企むプランナーやコピーライターが表現に介在していなさそうなところに、
視聴者の自分はとても魅力を感じたんじゃないかな、と。
残酷だなあ、視聴者の自分。
もし出品作でベストな作品を一本選べと言われたら、
この船場センタービルか佐藤さんと福居さんのランドセルで悩んだと思います。