大阪広告協会トップページへ

公益社団法人 大阪広告協会 70周年記念事業サイト

大阪広告協会賞 受賞企業インタビュー

第3回に登場いただくのは、朝日放送株式会社です。
マスメディアを取り巻く環境変化や技術革新への対応、ABCブランドの基本的な考え方などについて、お伺いしました。

朝日放送株式会社 社長 脇阪聰史さま

生放送で培った制作力で人気番組をつくる
発信先は関西、そして世界へ

朝日放送株式会社 社長 脇阪聰史さま
1970年朝日放送株式会社入社。
テレビ本部テレビ営業局営業部営業課長、
東京支社テレビ営業部長、テレビ営業局長などを経て
2011年6月に代表取締役社長就任。

若者のテレビ離れが進む一方、「ライブ感」のある番組は人気

伊吹先生マスメディアを取り巻く環境は技術革新などで目まぐるしく変化しています。現在のテレビをめぐる状況はいかがでしょうか。

脇阪社長 大阪広告協会さんが70周年という中で、朝日放送としましては今年65年となります。当社は1951年のラジオ放送、1956年にテレビ放送を開始し、現在に至るまでラジオ・テレビ兼営の放送局として大阪・近畿エリアで展開してきました。現状で申し上げると、若年層のテレビ離れの現象が顕著になってきています。経済産業省の調べによると、30歳以下の世帯でのテレビ保有率は85%にまで落ちている、との統計が出ています。スマートフォンの普及が背景にあると思いますが、特に若い男性のテレビ離れは顕著です。しかし、その一方で、ニュースやスポーツ中継などライブものは高い人気を誇ります。当社の番組でいうと昨年、5年ぶりに復活した「M-1グランプリ」。これは、18時半から21時までのライブで、演者も、演出も生。筋書きがないので見ている者もライブ感を楽しむことができます。敗者復活戦はネット投票で行うなどSNSを活用し、高い効果を発揮することができました。放送局として「番組を作って放送する」というのが基本であることに変わりはありませんが、SNSの普及や電子デバイスの多様化により、もはや「出口」は地上波6チャンネルだけではなくなっており、そういう出口を意識して、コンテンツづくりに取り組むように現場に対しては指示しています。

伊吹先生 インターネットの時代では、新聞やテレビでは1日に1回、2回しか出せなかったものが、さらにタイムリーに提供できるようになっています。

脇阪社長 我々は放送事業者ですから、放送したものに対する責任があります。しっかりと情報をチェックして放送しているテレビと、ネットという媒体の意味合いは違うと思っています。

伊吹先生ライブ感のある番組が人気というお話でしたが、生放送ではない番組はどうでしょうか。

脇阪社長 これが、非常に悩ましいところです。リアルタイムで視聴せず、録画した番組を視聴するスタイルが増えているのがドラマですね。ドラマは昔と比べて視聴率20%、30%という数字を出すことが非常に難しくなっています。今でも高視聴率の番組は出ますが、本当に大きな話題となったものに限ります。時間帯でいうと、23時台の若い人たちがよく見る時間帯の視聴率が下がっています。ただ、これも「テレビが見られなくなった」と決めつけるのは早計で、この時間帯に録画した番組を見ているのかもしれません。その辺はまだしっかりと調査できていないのですが、今後しっかりと分析していこうと思っています。

伊吹先生 ライフスタイルの変化などもあり、リアルタイムでテレビを視聴しない人が増えているのかもしれません。私自身も好きな番組でも録画して見ていたりします。

脇阪社長 そうなんですよね。ただし、当社のビジネス、事業構造を考えると、売上の9割がテレビ事業で、さらにそのうち約6割がテレビスポットの広告収入で成り立っているというのが現状です。ですから、ライフスタイルの変化などはありつつも、やはりリアルタイムでの視聴率にこだわっていく必要があります。そのためにも、録画ではなくリアルタイムで見たい、リアルタイムで見なければというように思ってもらえる番組の力、コンテンツの力が必要になってくるのだと考えます。

伊吹先生 御社は「M-1グランプリ」もそうですが、スポーツ番組も含めて、確かに生で放送するコンテンツを作る力が強いと感じます。それは何か理由がございますか。

脇阪社長 当社は朝5時から「おはようコールABC」、6時45分から「おはよう朝日です」を月曜日から金曜日にかけて放送しているという実績があります。「おはよう朝日です」は40年近く続く長寿番組ですし、スタッフもそこで、スタジオ回しや中継などのスキルを身につけており、それが人気のコンテンツを生み出す制作力に繋がっています。

伊吹先生 なるほど。日々の生放送が制作力に繋がっているのですね。今は、朝の時間帯は出かけてしまっているのでテレビを見ることはあまりないのですが、学生時代はよく拝見しました。ずっと集中して見ているわけではないのですが、つけていると安心感があります。

脇阪社長 ありがとうございます。ファミリーで安心してみることができる番組供給というのは当社の番組制作のコンセプトで、「おはようコールABC」「おはよう朝日です」はまさにそのコンセプトに直結しています。ただ、視聴者の意識調査をしますと、当社は「信頼性」は非常に高いのですが、一方で「親しみやすさ」と「明るさ」が他社の後塵を拝している状況ですので、番組づくりでも意識するようにしています。

伊吹先生 リアルタイムでの視聴率を取っていくと同時に、ほかの形でも広告収入を考えないといけなくなってくるのだと思うのですが、どうでしょう。

脇阪社長 放送局ですから、やはりコンテンツ力から派生させていく方法が中心になってくると思います。ネットの部分に関しては、一昨年から開始した「バーチャル甲子園」というコンテンツが好評です。「バーチャル甲子園」とは当社が持つキラーコンテンツである高校野球の映像をネットで配信するもので、単なる動画配信ではなく、投手目線のカメラ、バッターカメラ、全体カメラ、中継カメラの4つのカメラを選択して視聴していただけるコンテンツで、事業として大成功を収めました。

ラジオで育つアナウンサー
知恵と工夫で人気番組を制作

伊吹先生 ラジオ・テレビ兼営の放送局であることの強みについては、どうお考えでしょうか。

脇阪社長 一番大きいのが、アナウンサーの育成です。野球放送など少ない情報の中で伝えなければいけないラジオは、テレビと比較しても難易度が高く、喋ることの訓練になります。実際に、ラジオをやりたい!と志望するアナウンサーは多いです。ほかにも、テレビと連動した番組をラジオで放送したり、テレビ番組のレギュラーがラジオで番組を持ったりと、相互乗り入れによるテレビとラジオのシナジー効果が発揮されています。収入の柱はテレビですが、ラジオは動員力があります。人を呼び込もうという時、5、6万人は動員できる集客力を持っています。

伊吹先生 テレビと違ってラジオはリスナーとの距離が近いですから、リスナーがパーソナリティーについていくという意味ではイベントなどの動員力がラジオは高いのでしょうね。宮根誠司さんや赤江珠緒さんなど、タレント的な人気のあるアナウンサーが御社から輩出されています。
御社と業態が一緒のラジオ・テレビ兼営局についてはどのように見ていますか。

脇阪社長 ラジオ・テレビ兼営局で、同じ大阪・近畿エリアで展開されている毎日放送さんは65年、当社と同じ歩調で歩いてきました。相手の強みも弱みも知っているし、当然負けたくないというライバル意識はあります。そして切磋琢磨しながら、これまで関西の放送文化を作り上げてきたという自負心というのもお互いが持っていると思います。ただ、ラジオという媒体だけでいうと、企業同士の切磋琢磨を超えて媒体トータルでの活性化はエリアで取り組んでいくべきと考えています。

伊吹先生 そうやって、今日の放送文化を築いていかれたのですね。
関西と東京の放送局に関して違いというのはありますでしょうか。

脇阪社長 キー局ほど潤沢な資金があるわけではありませんが、だからこそタレントありきではない、魅力的な手作り企画の番組を作ることができています。当社でいえば「新婚さんいらっしゃい!」「大改造‼ 劇的ビフォーアフター」「世界の村で発見! こんなところに日本人」などの番組は良い例で、スタッフの知恵と工夫が制作に発揮されています。

伊吹先生 制作スタッフの育成についてはどのようにされていますか。

脇阪社長 東京にも支社がございますし、東京制作もあります。それなりの人数、特に若いスタッフは積極的に東京に送り出し、仕事を経験させるようにしています。東京で経験を積むことで、人脈ができ、大阪に戻って番組を作る時に厚みが出てきます。そこに、大阪テイストの味わいを乗せれば、十分全国に通用するコンテンツが作ることができます。

10年ビジョンでも世界を意識
「戦友」意識高め、一致団結を

伊吹先生御社はグローバル展開も積極的に進められていらっしゃいます。

脇阪社長 海外の放送局との連携を強めています。昨年は、「クールジャパン」推進のための国の補助金を活用し、ベトナムのホーチミン市テレビさんと一緒に番組を制作しました。ハノイでの「新婚さんいらっしゃい!」の公開収録の実施などを通して同社とパイプができ、サイゴン陥落を題材にしたドキュメンタリー制作に協力いただくなど交流が深まりました。

伊吹先生 大阪、関西の番組が世界に発信されているのですね。

脇阪社長 2012年に社員から、「10年後、どんなABCであってほしいか」という意見を募り策定した「朝日放送10年ビジョン」の中でも、「関西ナンバーワン、世界へ」というスローガンが採用されました。世界に対する意識は高まっています。ちなみに他のスローガンは「家族をつなぐエンターテイナー」と「OPEN↑楽しいABC!」。その議論から誕生したのが、新しいマスコットの「エビシー」です。ピンクのかわいい未確認動物なんです。

伊吹先生なるほど。社員の中にも浸透しているのですね。
最後に関西の広告界の活性化についてお伺いしたいと思います。脇阪社長は関西の広告界とは深い繋がりを持ってらっしゃいますが、どうすれば広告界が元気になるでしょうか。

脇阪社長 私は1970年から営業として仕事をしてきました。東京にも長くおりましたが、関西の広告界、特に関西スポンサー協会さんとは40年ほどの付き合いがあります。関西スポンサー協会さんには非常にお世話になっており感謝していますし、オイルショックやリーマンショックなどのピンチにあっても一緒に歩んできた「戦友」だと思っています。ただ、近年はその戦友意識が少し薄まっているように感じて、危惧しているところです。関西から世界に発信し、売り出していくためには、広告界の関係者が今一度一致団結することが必要で、私も一緒に大阪・関西を盛り上げていきたいと考えています。

伊吹先生 関係者がタッグを組んで、国内はもとより国を超えて盛り上げていこうということですね。貴重なお話ありがとうございました。

脇阪社長ありがとうございました。(了)