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大阪広告協会賞 受賞企業インタビュー

第8回に登場いただくのは、ハウス食品グループ本社株式会社です。
ロングセラー商品のブランディングとコーポレート戦略について、
また「食でつなぐ、人と笑顔を」のコーポレートメッセージで表される企業姿勢について、お伺いしました。

ハウス食品グループ本社株式会社 取締役 コーポレートコミュニケーション本部長 藤井 豊明さま

ロングセラー商品を支えてきたのは、
おいしさへのこだわりや徹底したお客様視点、
課題を共有する社内外のチームワーク

ハウス食品グループ本社株式会社
取締役 コーポレートコミュニケーション本部長 藤井 豊明さま
1976年ハウス食品株式会社入社。マーケティング室広告課配属。
2002年マーケティング室長、2004年執行役員マーケティング本部健康食品部長、2008年取締役常務執行役員カスタマーコミュニケーション本部長などを経て、2015年より現職。
「バーモントカレー」など社会的ヒットとなる商品のテレビCMの制作などを担当。健康食品部長時代には「ウコンの力」の開発を手掛ける。海外事業の担当役員なども経て、現在は、広告、広報、CSRなどグループコミュニケーション全般を担う。

明るく健康的なトーンアンドマナーに統一
食べてみたいと思われるCMづくり

伊吹先生 ハウス食品さんは、1970年(昭和45年)、1986年(昭和61年)と、大阪広告協会賞を二度受賞されています。御社の広告の歴史を教えていただけますか。

藤井本部長 当社は1913年(大正2年)薬種化学原料店「浦上商店」として創業し、漢方やスパイスを扱っていました。1928年に「ハウスカレー」を発売。同時期に、日本中の家庭に幸せを届けたいという思いを込めて、家のマークと「In Every House」という言葉を社章としました。1931年には初めて新聞広告を掲載し、1951年にはラジオでコマーシャルソングを流しています。当社で一番のヒット商品である「バーモントカレー」が出たのは1963年。それまで、カレーと言えば大人向けの辛い味付けが主流でしたが、りんごと蜂蜜を入れて、子どもと一緒に家族で食べられるよう、カレーの位置づけを変えた画期的な商品です。テレビCMでは1973年から西城秀樹さんを起用し、「ヒデキ、感激!」のキャッチコピーと「ハウスバーモントカレーだよ」のコマーシャルソングで話題になりました。当時の社長は、若くして就任したこともあり、新聞やラジオ・テレビが伸びていく時期にうまくマスメディアに軸足を置いてマーケティングを展開したと思います。

伊吹先生 新聞広告以前にも、宣伝カーやデモ販売など、独自の広告手法を開拓されておられます。今でいうコーポレートブランド戦略ですね。御社のテレビCMは、家庭に受け入れられやすい、明るくさわやかな印象を受けます。これは昔から今に至るまで、また商品を超えて一貫したイメージがあります。

藤井本部長 当社が常にこだわっているのはお客様起点のマーケティングです。経営会議の冒頭には、毎回必ず商品や広告へのご指摘事項やご要望事項について報告し、速やかに対応策を討議・決定していきます。広告制作以前に、まず会社として変化への対応を怠らずにやることが重要だと考えます。
広告のトーンアンドマナーは、家族で楽しくおいしく食べていただけるような、明るく健康的なイメージです。また、面白ければいい、目立てばいいという考えではなく、CMを見た方が食べてみたいと思うかどうかという視点で判断します。また、安心感という意味でも、CMに出演していただくタレントさんは、ハウス食品のイメージに合う方に、商品の顔として長く出ていただく方針で選んでいます。西城秀樹さんには、「バーモントカレー」のCMに11年間出ていただきました。西田ひかるさんも、CMに出ていただくだけでなく、野菜ソムリエとして得意先の流通イベントにも参加するなどしていただいておりました。

伊吹先生 それで「バーモントカレー」や「ウコンの力」、「とんがりコーン」など、ハウス食品さんのどのCMを見ても、なんとなく安心するんですね。ロングセラーの商品が多い中で、このほか商品ブランドを維持するために、どんなところにこだわっていらっしゃいますか。

藤井本部長 商品のブランドを維持するためには、広告で100点や120点を取って一発当てるよりも、安定的に80点や90点を取り続けることが大切です。一つの商品について一つの広告代理店さんに信頼して預け、がっちり組んで、市場の変化を見ながら、同じトーンを守って広告を作っていきます。ハウス食品自体のことやカレーの市場の理解が深まるにつれて、チーム全員がハウス社員のような気持ちになってくれるんですよ。私が長くお付き合いさせていただいた広告代理店の方は、退職後カレーショップを経営されることになり、さらにお付き合いが続いていくようなこともありました。

伊吹先生 クリエイティブのトーンアンドマナーに関しても、一社と長くお付き合いしていくことは、メリットがあるということですね。

親から子につなぐカレーづくりが教えてくれるもの
長期にわたるファンづくりと社会貢献

伊吹先生 新製品の展開で気を配っておられることはありますか?

藤井本部長 新製品は、まずはおいしいものづくりが大事です。またヒットの兆しがあれば、マーケティングをもとに味やその他のいろいろな部分を改良し続け、ロングセラーを目指します。

伊吹先生 リピーター作りで工夫しておられることはありますでしょうか。

藤井本部長 おいしく食べていただいて、商品のファンになっていただくことを狙いとして、様々な活動をしています。ここ数年、カレーの需要期である夏場においては、JAさんとコラボして、地域の野菜を使ったカレーレシピを開発し、食べ方提案を行っています。
また、小さいお子さんに商品に触れていただくために、幼稚園児に「バーモントカレー」を作って食べてもらう「はじめてクッキング」というイベントを、1996年から丸20年継続して行っています。今年も約5,000の幼稚園で約50万人のお子さんに参加してもらっています。子どもの時に「はじめてクッキング」に参加して、今では幼稚園の先生になっていらっしゃる方もいるんですよ。お子さんが包丁を持って料理をするわけですから危ないこともあるのですが、先生方のご理解・ご協力をいただいて続けています。
特にカレーは、小さいときに触れた味をよく覚えているものだと思うんです。「我が家のカレー」「うちのお母さんのカレー」のことはみんな語れますよね。ルウも、何でもいいというものではなくて、一度違うものに変えてもやっぱりいつものものに戻ってくるようなところがあります。ブランド力です。おいしいことに加えて、長年続けてきたイベントが広告として、ファンづくりやブランドの蓄積につながり、ロングセラー商品を支えていると理解しています。

伊吹先生 幼稚園で「はじめてクッキング」に参加した子が、親になった時に、子供に食べさせるものとして「バーモントカレー」を選ぶというように、長期でサイクルが回るというわけですね。

藤井本部長 「バーモントカレー」が選ばれてきたのは、野菜嫌いなお子さんが、カレーにすれば喜んで食べてお代わりまでしてくれる、それを見て親御さんが喜ばれるからなんです。最近では、アレルギーのお子さんでも食べられる、特定原材料7品目不使用のカレーを発売し、CMに加えて、新聞社と組んでフォーラムを行いました。アレルギーをお持ちのお子さんがいる若いお母さんたちからたくさんの質問が出て、本当に悩んでおられることなんだなと実感しました。この商品が出たことで、一つのお鍋で作ったものを、家族みんなで安心して食べられると評価していただいています。

伊吹先生 まさにCSV(Creating Shared Value)、本業を通じた社会貢献ということですね。このような活動が、新聞やブログ・SNSを通じて、御社の名前とともに拡散されていくと思います。その時に、お客様の頭の中で、様々な商品や広告活動と、ハウス食品さんの名前を結び付けるために、マーケティングコミュニケーションを組み合わせていくことが求められるのかなと思います。

藤井本部長 2013年に100周年を迎え、ホールディングス化したことで、企業広告と商品広告を分ける必要が出てきました。新しく「食でつなぐ、人と笑顔を」というコーポレートメッセージを制定しました。加えて、「食で健康」という活動テーマを基にクオリティ企業へ変革していくことを中期計画に掲げております。企業ブランド広告では当社の開発力、そしてグローバルをキーワードにしたいと考えています。アレルギーの特定原材料7品目の中に含まれる小麦粉を使わずに、とろみの出るカレー粉を作るのは、かなり苦労しましたが、お客様の悩みをしっかりとらえ、チャレンジを重ねている企業姿勢を伝えたいです。

メディアミックスで業務用や外食市場との
シナジー効果を目指す

伊吹先生 いまは若者の新聞・テレビ離れが顕著ですから、その層とのつながりを持つのが難しいですよね。ネットメディアに対応するために、どのような取り組みをされているのですか。

藤井本部長 YouTubeに動画を上げたり、クックパッドとタイアップしたりして、若い人と接点を持てるように工夫しています。作り方の分かりにくい部分や、カレーのとろみの付け方などCMでは伝えにくい情報を動画で伝えるようにしています。しかし広告全体でいうと、当社のお客様はスーパーに買い物に行かれる方たちなので、テレビCMを広告の軸に置くことは変わることはございません。ただ、もっとターゲットを絞って刺さり込むような話題作りをしていかなければならないことも事実です。広告代理店や媒体社の皆さんにはクロスメディアやコンテンツをどんどん提案いただき、タイアップしていろいろな仕掛けを打ち出していきたいですね。

伊吹先生 グローバルな商品展開に関して、広告はどのように取り組んでおられますか?

藤井本部長 調査から、企画やチェックまで本社の社員が関わって作っています。国ごとにルールや食文化が違うので大変ですね。中国は炒め物中心なので、煮込み料理のカレーが浸透するには時間がかかりました。

伊吹先生 最後に、大阪発祥のハウス食品さんですが、大阪をもっと元気にしていくために、ご意見をお聞かせいただけますか。

藤井本部長 長年大阪でお世話になっていますので、広告に携わる方々の顔が、だいたい見えて、性格までよく分かるくらいの距離感です。いろいろな業種の方と一緒に仕事をしても、皆さんハウス食品を好きになってくださって、我々も好きになる、そういう関係でいい仕事をしてこられたと思います。横のつながりや義理人情があり、情報交換したり切磋琢磨し合ったりする中で、みんなでモノづくりをしていくのが大阪らしさではないでしょうか。
ハウス食品はこれまでBtoCを中心としてきた会社ですが、近年業務用や壱番屋など外食のグループ会社が増え、いままで考えてきたようなマーケティングだけではすまなくなってきています。例えばエリアごとの仕掛けや、グローバルの課題など、新しいことをやっていくために、ぜひ大阪の皆さんの力をお借りしたいと思います。

伊吹先生 大阪から、日本全体や世界を見据えた企画が出ていくといいですね。本日は、非常に楽しい話をありがとうございました。

藤井本部長 ありがとうございました。