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大阪広告協会賞 受賞企業インタビュー

第5回に登場いただくのは、株式会社毎日放送です。
視聴率重視の番組づくりを進めるなかで追求する独自性、
視聴者の心を掴むコンテンツの創出、
放送局の将来像などについて、お伺いしました。

株式会社毎日放送 社長 三村景一さま

視聴者の気持ちによりそい、
人のまねをしないことにこだわることで
“毎日放送らしい”番組を作り続ける

株式会社毎日放送 社長 三村景一さま
1977年株式会社毎日放送入社。
テレビ編成制作局チーフ・プロデューサー、
取締役制作局長、取締役テレビ営業局長などを経て、
2015年6月に代表取締役社長就任。

新しさと大阪らしさ、
独自性のあるお昼のワイド番組

伊吹先生 長い歴史を誇るMBSのDNAは何でしょうか。情報番組を見ていると、「大阪の局だからお笑いがあればそれでいい」、だけではない何かを追求しているイメージがあります。

三村社長 MBSはラジオの民間ラジオ放送局として開局し、65年を迎えるに至りました。私が若い時、面白い企画を提案しても、「先月、他局でやっていたわ」と言われたらそこで終わりでした。他局のまねをしないことが大鉄則でしたから。「やられたな」と言いつつも、先に企画を形にした他局に刺激を受け、制作者は視聴率よりも“らしさ”の創出を目指しました。タレントさんについても、他局のイメージが強い人は起用しない、というところにまでこだわりました。それがDNAの源泉です。まねをしない番組作りのなかで大事にしているのは「人の気持ちに寄りそう」こと。この二つがMBSの根っこです。
今はマーケティング、視聴率、スポンサーの意向に沿い、ほかにはない番組を作るというよりも高い視聴率をとる番組づくりを目指すようになり、制作者のモチベーションのあり方も変わりました。ただ、シビアな戦いのなかですが、DNA=根っこを守らないと視聴者はどれも同じだと思ってしまいます。変化の多い業界に長くいると、新しいことや細分化されたテーマなどへの対応には慣れるのですが、「ふつうの人の気持ちがどこにあるのか」を考えることが下手になります。人材の個性を生かす仕事をさせられているかどうか、気を配るのが私の仕事だと思っています。

伊吹先生 そのようななかで、DNAを大事にしながら勝ち組になり、ブランド化する番組を制作するにはどうすれば良いのでしょうか?

三村社長 やはり、人の気持ちを掴むコンテンツにこだわることだと思います。長い間、制作に携わってきましたが、1999年から放送開始した「ちちんぷいぷい」は、学ぶことがたくさんありましたね。あの番組の特長は情報をトークにしていることと、制作サイドだけではなく、番組の出演者も一緒になってトーンを作ってくれていることです。例えば美しい景色の中継を流す時は、ざこば師匠の「しゃべらんでええねん」の一言で、出演者全員が黙って見る。数分沈黙が続いてそろそろ限界かな、という頃になるみちゃんが「息詰まるわ」と言ってくれる、そんな流れがあります。抜群の景色だから黙って見ましょうという新しさと、息詰まるわという大阪らしい笑いがあります。

伊吹先生 その独自性もあって、今やお昼の番組として確固たる地位を築いています。

三村社長 ありがとうございます。「ちちんぷいぷい」の制作を通し、ふつうを伝える難しさ、ライブを形にするプロセスをたくさん経験させてもらいました。ライブと一言でいうのは簡単ですが、ワイドショーはエンドレスですし、いろんな「今」が飛び込んできます。予定していたラインナップどおりにならないこともある。テーマもジャーナリズムだけではなく、生活に関するあらゆることです。そこでどう勝つか、差別化するかということをMBSのワイド班は一生懸命やってきました。番組名はその思いを前面に出さず、おまじないにしたのです。

伊吹先生 面白いですね。「ちちんぷいぷい」もそうですが、MBSらしさが前面に出ているといえばやはりラジオ。私もコミュニティFMで番組を持った経験があるのですが、番組の個性にリスナーがついてくるのがラジオだと思います。ラジオの経験がある三村社長がトップになったことで、テレビでもラジオでも制作面で“らしさ”を追求しやすくなったのではないでしょうか。

三村社長 ラジオは想像力の世界です。「今日はステキな赤いノースリーブを着ていますね」と言った時、想像するデザインは聴いている人の数だけあります。アナウンサーも鍛えられます。角淳一が番組内で、チビなど自分の風采を揶揄するようなことが書かれたはがきを破り続けていると、「これ破れるか?」とかまぼこの板やら、金属のチリトリなどが送られてくるようになりました。ある日、小鹿のバンビの写真が送られてきて…それは破れなかったんです。視聴者とのコミュニティに育ててもらいました。今はネット社会。嘘も本当もあるという世界ならではのコミュニティがあります。また、スマホに向いている人の気持ちをどうやってテレビ、ラジオに向けさせるか。ヒントになったのがラジオウォークです。毎回たくさんの方が来られるんです。なぜ集まるかというと、歩くことが注目されているからですね。僕が学生の頃は、ウォーキングシューズという言葉もありませんでした。注目してもらえるものを作りたければコンテンツを考える時にそこを意識しないと、こちらを向いてもらえません。

ネット社会、技術革新など環境は変化
大切にしたいコンテンツへのこだわり

伊吹先生 ネットの勢いをどうお感じになっていますか?

三村社長 歌手の加藤和彦さんがお亡くなりになった時、「あの素晴らしい愛をもう一度」をむしょうに聴きたくて、ユーチューブを観ました。バンドが歌う動画の下にずらっと並ぶ追悼メッセージを読んで、この世界はすごい、ラジオは大変なことになったと思いましたね。音楽を聴きながら、その時代を共有するメッセージがリアルタイムで飛び込んでくるわけですから。
当社にもラジオに興味のある新入社員が入社してきました。彼らにパーソナリティの候補者を10人選出してもらったのですが、私の知らない人が半分以上いました。「とりあえずやってみたら?」とラジオ局に送りたい気持ちはありましたが、今はそういうシステムでは会社は動きません。焦らず、自分の作りたいものを具現化してほしいと思っています。しかし、商社や銀行と横並びで放送局を就職先に選んで入社する人が増えてきているなかで、うれしいできごとでした。

伊吹先生 開局から半世紀以上の時間が流れ、放送局は大企業になりました。メリットもある一方、クリエーティブの面では、自由度が失われてしまう部分もあるのかもしれません。

三村社長 そうなんです。やってみたいのなら経験がなくてもやらせてみるというマインドや勢いが私の若い頃はありました。時代が変わっても、新人がいきなりラジオ番組を制作するような勢いがある会社でなければいけないと思っています。

伊吹先生 クリエーティブには、チャレンジし続ける精神が欠かせないということですね。4K解像度など映像技術の革新も目覚ましいですね。進化していく技術とクリエーティブのあり方についてはどうお感じになっていますか?

三村社長 桜、紅葉、雪景色を見るならより美しい方がいいです。大事なのは4K、8Kで見たい番組は何なのかということ。ドラマのエンディングの15分で感動的な花吹雪を見せるための8K、という感覚。そんなエンディングが待っている物語を作ることが大事です。技術をクリエーティブに利用するのであって、技術のためのクリエーティブではないですから。

テレビ、ラジオだからできることを追求し
ブランドに結びつく番組制作を

伊吹先生制作を経て営業部に行かれました。広告界への思いはおありですか?

三村社長 まずスポンサーを訪ねて驚いたのは、一つの商品に全社員が愛情を持っていて、その商品を浸透させようとしていること。創造というのは番組づくりだけではなくて、すべてのことに当てはまるのだと知りました。通販の会社を訪問した時、総務部に「創夢部」と書いてあって、感動しました。「総務が夢作っているんですか」、と聞いたら「製造が夢をつくるのは当たり前、総務が夢をつくらなくてどうする」と言われました。常にクリエーティビティを問われている放送局は、創造することに習熟してしまっていると反省しましたね。商品は人の気持ちや生活に敏感になることで誕生し、その商品を浸透させる広告にもプロセスがあります。タイトルやキャッチ、起用するタレントさん、すべてにこだわりがあります。そのCMを流す放送局は、出稿していただくことにばかりに身が入っているのではないか。負けていると思うことがいっぱいありました。

伊吹先生 文化的にも優れた30秒や1分のCMがあります。心に残るCMやキャッチコピーはございますか?

三村社長 学生時代に見た、「1秒の言葉」に感動しました。当時、「ゆく年くる年」は「セイコー」さん1社提供で、全ての民放で流れました。賞をとるような素晴らしいCM作品がありますが、オンエア時間が短いことで商品のリーチ度が弱い部分があります。その原因を追求し、リーチ度を高める必要があります。優れた広告などは、何度も繰り返して見られるユーチューブで話題になり、評価されるでしょう。私たちはテレビだからできることをするために、開局当時の「CMって何ですか?」という時代に回帰しないといけないと思っています。

伊吹先生 そのためには、広告会社が作ったCMを流すだけではなく、CMや商品にもっと関わり、商品やクライアントごとに放送をアレンジするということも放送局の将来像なのではないでしょうか。

三村社長 そうなんです。制作者にとっても視聴者にとっても、今は番組とCMは分離していると思います。テレビやラジオだからできることでその二つをつなぎ、プラットフォームを作らないといけないですね。私は「1秒の言葉」で感動して以来、文字の世界に可能性を感じ続けています。大阪にも、独特の広告文化がありますね。例えば電通さんが作った文の里商店街の「ポスター?はよ作ってや。死ぬで。」というポスターのコピー。こういう言葉で深い世界まで表現できるのは大阪だけではないでしょうか。これは数あるワイド番組、ローカル番組の命だとも思っています。

伊吹先生 そのとおりですね。先ほど、視聴率を追いかけるとオリジナリティの追求が難しくなるというお話されましたが、最近、両方に成功されたコンテンツはございますか?

三村社長 TBSの「あさチャン」の「ぐでたま」ですね。朝からぐでってどうかな、と懸念していたのですが、想像以上に流行りました。うれしい誤算でしたし、朝からぐでっというのが世の中に受け入れられたことも新発見でした。このことから、社員にはラジオでもテレビでも人の気持ちを掴むものを作る原点に返ってほしいし、それぞれの個性で花や雑草を咲かせてほしい。裏庭で咲く雑草も大事です。それが将来のブランドになるかもしれません。てんでに花を咲かすが、根っこだけはMBSでありたいし、私は根っこをつなぐ社風を作ることを考えたいと思っています。

伊吹先生 ブランドを決めるのは、作り手ではなく視聴者。人の心を掴むコンテンツを作り続けると、それがブランドとして認められるということですね。ありがとうございました。

三村社長 ありがとうございました。(了)