広告活動で世の中を巻き込むことができているか
伊吹先生 江崎グリコさんの会社の歴史と広告の歴史は近いものなのでしょうか。
玉田部長
ゴールインマークや「一粒300メートル」というコピーは、グリコという商品を売るために生まれています。会社の歴史を語るとき、多くの割合で広告の歴史について語られていると思います。
明内マネージャー
1992年に発行された当社の70年史を見ても、広告に関する記述がとても多いことに驚かされます。我々の大切にしている創業者の言葉で、「2×2=5」(ににんがご)という創意工夫を求める意味の言葉がありますが、広告にもその精神が発揮されてきました。1931年に、映画を見ることができるグリコの自動販売機やクーポン付きのチラシ広告が考案されたり、新聞広告では読者参加型ともいえるクイズ広告や折るとかぶとになって遊べる企画などユニークな企画が多数展開されています。
伊吹先生 業界初、日本初というような広告活動をやってこられたんですね。
玉田部長 当社は有力な競合他社のいる市場の後発のメーカーですから、そこで勝つための有力な手段として創業者が広告活動を重視したということだと思います。
伊吹先生 創業者・江崎利一氏といえば、技術畑・発明家のイメージが強かったのですが、広告を非常に重要視しておられたんですね。創業者が考えていた広告のあるべき姿、ポイントはどういったものだったのでしょうか。
明内マネージャー 一言でいうと、徹底的な創意工夫だと思います。先程、「2×2=5」の話をしましたが、一つの広告が何倍もの効果に繋がるのか?ということを何度も何度も確認されていたと思います。
伊吹先生
創意工夫の確認というのはなかなか難しいですね。
明内マネージャー
世の中を巻き込んでいくかどうか、というのが一つです。純粋な広告を作って出稿してそれでおしまいではなく、いかに世の中に波及させていくかというのが、そもそものストライクゾーンの基準になっていると感じます。
玉田部長
今で言えば、テレビやウェブでやった広告が、口コミやSNSで話題となっていくような波及効果が大事で、それは広告をつくる上で意識していることです。
広告は資産。
商品を通じた絆を上書きし愛され続けるロングセラーブランド
伊吹先生 創業の時は、確かに強い同業他社がいて、そこに勝っていくために知恵や工夫が必要だったと思うのですが、現在のように確固たる地位を築かれ、ブランドを確立した状況においては、放っておいてもある程度商品は売れると思いますし、創意工夫というのが難しくなってくるように思うのですが。
明内マネージャー
ロングセラーブランドであればあるほど、商品についてはみなさん知っていただいているで、「どうすれば今の時代にふさわしくてみんなに愛されるピカピカ輝く商品、ブランドになるか」ということを考えなくてはいけません。ですから、創意工夫というのは変わらず必要です。その時の創意工夫の確認は、お客様と商品との絆をどういう風に築いていくか、が大切だと思っています。
伊吹先生
最初の頃はまずは知ってもらうということが広告の目的だったと思うのですが、ブランドを確立してロングセラーとなると、広告の果たす役割が変わってくるのですね。
子どもの頃のお菓子との思い出は非常に強く残っていくと思うんですが、大人になってから新しく思い出を紡いでいくためにどのような広告の打ち出し方をされていますか。
明内マネージャー
例えばポッキーでは〝みんなでシェアすることで幸せなひと時がよりハッピーになる〟という意味を込めた「Share happiness」というキーワードでコミュニケーションを進めています。いわゆる商品を通じた「絆」づくりです。
伊吹先生 絆を象徴化するという取り組みは、ここ最近の話ですか。
明内マネージャー おそらく当社は創業の頃から、広告は目の前の売上を上げるためだけにあるのではない、広告は「資産」であるという捉え方をしています。ですから我々の仕事としては、過去の思い出を常に上書きして絆を作り続けていかねばなりません。先輩たちもそうやって資産を活用して、広告をつくってこられたと思います。
玉田部長 当社の商品からは、どうしても「懐かしい」「子ども」というイメージが強く出るので、「先進的」とか「大人っぽい」というような新しいイメージも作り上げていきたいと考えており、現在特に力を入れて取り組んでいることです。
伊吹先生 コーポレートイメージも、プロダクトのイメージにどうしても引っ張られるので、そこを「大人」といったコーポレートイメージに持っていくというのは大変でしょうね。
明内マネージャー
主にコンビニエンスストアで売っているビスコミニパックは、大人の女性がランチの後にちょっと食べるというようなシーンで売れており、売上も順調です。ですからうまく大人の女性にも絆が繋がり、愛していただけ始めているのかな、と思います。広告でもがんばるすべての女性を応援する〝ウーマンビスコ〟という取組みを行っています。
伊吹先生
なるほど。そのように絆のつなぎ替えができているのですね。
日本人の健康に資する思いをゴールインマークに込めて
伊吹先生 御社の広告において、時代ないしは商品を超えて変わらずにやっていらっしゃる部分がありましたら、教えてください。
玉田部長
ブランドの課題解決をするのに一番適したクリエイティブを、その中身やメディアを変えて作っているので一貫して同じという部分はありません。ただし、グリコというコーポレートとブランドイメージを繋げるために、広告の最後にサウンドロゴをつけてはいます。
伊吹先生
タレントさんの起用方法では何か一貫した考え方がありますか。
明内マネージャー
1974年より提供を開始した「スター誕生!」という番組では、山口百恵さんらが発掘されましたが、タレント事務所と一緒になって新人を発掘し、商品とともに育てていこうという思いは今も大切に思っています。
伊吹先生
広告会社さんとの付き合い方というのはどうでしょうか。
玉田部長 会社も、担当者も長いスパンでお付き合いしているところが多いと思います。クリエイターもそうです。ですから、社内にはスペシャリストとして長くやれる社員が必要です。また、社員が広告環境の変化についていけるよう、積極的にWEB関連の勉強会に参加させています。弊社の経営陣からも変化に対して機敏に動くよう求められているので勉強は欠かせません。
伊吹先生 関西はオーナー系の企業さんを中心に広告会社と長くお付き合いされているところが多いというのはよく聞きます。長くお付き合いされている理由はどういったものでしょうか。
明内マネージャー
ブランドを大切に育てていくことが重要ですので、短期的な目線だけでブランドを傷つけてはいけないという思いがあります。
広告制作の進め方としては、広告会社にすべて任せるというよりは、「こういうゴールがいいよね」という共通するイメージを持ちながら、話し合いの中で進めていきたいと思っています。
伊吹先生 面白いことに、これまでお話を伺った関西の企業さんもみなさん「一緒につくる」とおっしゃっていました。一緒につくるというのが広告上手のポイントかなと感じます。
明内マネージャー 一緒につくることで、広告効果が10倍にも、20倍にもなることがあります。例えばAKB48さんと取り組ませていただいたCG制作の架空メンバー「アイスの実 江口愛実企画」や30才以上のメンバーを募集した「パピコ 大人AKB」キャンペーンは、世の中を巻き込みながらグリコらしさが発揮できた例だと思います。
伊吹先生
なるほど。
グリコらしさという言葉も出ましたが、野外広告、看板の話もぜひ聞きたいと思います。今では世界規模で道頓堀の看板は知られており、これは大阪になくてはならないもの、原風景のようになっていると思います。御社の中での看板に関する位置付けとはどのようなものなのでしょうか。
玉田部長 会社の成り立ちから、ゴールインマークは我々がとても大事に思っているものです。創業の精神「食品による国民の体位向上」という考え方のもとに事業を行ってきました。そこから完成したのがお菓子と栄養が一つになった栄養菓子グリコであり、その象徴がゴールインマークなのです。これを圧倒的な視線が集まる場所で広告することにしたのが、道頓堀グリコサインです。現在のものは6代目で、長い期間検討を重ね新しいものにしました。
伊吹先生 グリコサインは、「グリコが何者なのか」ということを伝え続ける役割もあるのですね。
明内マネージャー 創業者は「とにかく儲けようと思っては駄目で、まず社会に対していかに貢献できるかということを考えるべきだ」という言葉を残しています。社員にとってもグリコサインは、その象徴だと思います。
伊吹先生 最後に、大阪や関西の広告界についてメッセージをお願いします。
明内マネージャー 関西のクリエイターは、人の感情の本音の部分を的確に捉えることに長けているように思いますので、世の中を盛り上げていく企画を一緒にできればと思います。
玉田部長 クリエイターとの距離が近いので、面白いことや新しいことが比較的生まれやすく、そして広告主側もそれを受け入れる文化が大阪、関西にはあると思います。大阪から全国へ、大阪だからできるクリエイティブや元気を発信していきます。
伊吹先生 本日は、ありがとうございました。
玉田部長・明内マネージャー こちらこそ、ありがとうございました。